【細幅鍵盤5】モーツァルトのピアノも細幅鍵盤だった!

ピアノの鍵盤の幅は昔からずっと現代のサイズだったわけではない。19世紀後半に、スタインウェイやベーゼンドルファー、ベヒシュタインの3大ピアノメーカーが立ち上がった頃に、大きなサイズが固定化した。

【細幅鍵盤2】ショパンのピアノは細幅鍵盤、ベートーベンも細幅だった!」わけだが、モーツァルトが自宅でいつも使っていたピアノフォルテの鍵盤も小さかった。

モーツァルト愛用のピアノはヴァルター

久元祐子著「名器から生まれた名曲(1)モーツァルトとヴァルター・ピアノ」(学研)によると、モーツァルトはヴァルター(Anton Walter)のピアノフォルテを愛用していた。1781年頃製作されたとされ、現在はザルツブルクの国際モーツァルテウム財団が所蔵し、モーツァルトハウスに展示されている。

音域は、fからfの5オクターヴで、61鍵ある。幅は99センチ、全長220.6センチ、高さ86.5センチ。最低音のfから3オクターヴちょっと超えたgisまでは2本弦で、これが40鍵ある。その上のaから最高音のfまでが3本弦で21鍵ある。計算すると、弦の数は143本ということになる。

キーの色は、現代のピアノをは逆で、チェンバロ風にナチュラルのドレミファソラシが黒鍵で、シャープ音が白鍵になっている。ちなみに黒鍵は黒檀が使用され、白鍵は牛骨である。

モーツァルトのピアノも細幅鍵盤だった

さて、肝心の鍵盤の幅であるが、最低音のfから最高音のfまで現代ピアノでいう白鍵が36鍵ある。この端から端までが、792mmであるということで、36で割ると白鍵の鍵盤幅はピタリ22mmである。

オクターヴのサイズは154mmである。モーツァルトが死ぬまで愛用していたピアノの鍵盤の幅は154mmである。現代のピアノのオクターヴが165mmであるので、ほぼ15/16に相当する。

サイズ感は、「【細幅鍵盤4】鍵盤設計と鍵盤サイズについて」でご覧いただきたい。16分の15というとわずかな比率のように思われるが、それでもオクターヴで約1cm縮まるので、半音か全音かキー1個分は音程が拡がるだろう。

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このモーツァルトが使っていたヴァルターのピアノフォルテは、彼の死後改造されている。同時期の現存するヴァルターも改造や修理がされており、当時の音を正確に再現できていない。本当に残念だ。

モーツァルトのピアノフォルテのレプリカは?

ヴァルターのピアノフォルテのレプリカは、1795年頃の楽器をベースに作られている。モーツァルトの生きた時代より少し新しい方式に変わっている。

1777年にモーツァルトはヨハン・アンドレアス・シュタインのピアノを絶賛しており、そのことを父レオポルトに書き送っている。でもお金が足りなくて買えなかった。300フローリン以下では買えないと書いている。

当時のウィーンの一般的な共同住宅の家賃は年額およそ60フローリン程度。モーツァルトの借りていたいくらか高価な住宅は、1787年から1791年にかけては年額200から450フローリンであった。

それにしても、ピアノフォルテのレプリカの鍵盤幅はどうなっているのだろうか? 現代の165mmに変えてしまっているのか? オリジナルサイズで作られているのか?

細幅鍵盤によりピアノの市場が拡大する

鍵盤幅を当時のサイズに作ることも近い将来には一般的になるだろうと思われる。ピリオド楽器として製作されるならば、当然、当時のままのサイズになるべきである。

クラシック音楽界の裾野は狭まっているかも知れないが、それ以上にピアノは売れなくなっている。デジタルピアノが普及していることも一因である。確かにデジタルピアノは格段の進歩を遂げている。作曲や練習する際にも大変に役立っている。

とは言え、やはり生のピアノは、木から出てくる響きを感じることができる。弦が振動する感じ、弦と弦が干渉したり共鳴する感覚も得ることができる。

細幅鍵盤に取り組む一流メーカーには幸運が訪れる

細幅鍵盤が普及するというのは、今までロシアやフランスの曲は手が小さくて弾けないと諦めていた人が、弾けるようになるということだ。アマチュアの世界でもプロの世界でも裾野が広くなるわけである。楽器ももっと売れるようになるのである。

Steinbuhlerのように現在細幅鍵盤を作製するメーカーもあるが、スタインウェイやベヒシュタイン、ヤマハといった一流メーカーにこそ細幅鍵盤を作ってもらいたいのである。鍵盤のサイズは重要であるが、音楽を奏でる楽器としての性能や品質というものもおろそかにはできない。

現代の一流メーカーには、鍵盤幅を大きいまま1世紀を超えて世の中に定着させた責任があるのではないだろうか。あるいは、これからのピアニストの幅を広げるために、細幅鍵盤のピアノも作っていただきたい。

 


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