【細幅鍵盤4】ピアノ鍵盤設計と鍵盤サイズについて

前回の記事は:「【細幅鍵盤3】バレンボイムの細幅鍵盤のグランドピアノ

細幅鍵盤に対しては、今でもいくつかの誤解があるようである。そこで誤解を解いていきたいと思う。

細幅鍵盤についての誤解

一つは、子供の練習用の鍵盤だという誤解である。3/4のバイオリンとかの連想で、音質的に劣ったものであるという誤解である。

細幅鍵盤のピアノというのは、本体の大きさも響板も同じであり、ハンマーのサイズも幅も厚みも重量も、ダンパーの幅も厚みも、すべてが同一である。どこを取っても劣ったところはないのである。バレンボイム氏はコンサートでこれを弾き、そして推奨してもいるわけだ。

ただ一つ異なるのは、鍵盤の幅だけなのである。

二つめには、現代のわがままな要望で出てきたものという誤解である。現代になって作り出された亜流であるという誤解である。以前にも書いたが、ベートーヴェンの時代、ショパンの時代のサイズの鍵盤を復活させようということが原点にある。

そして、手の大きかった19世紀後半のヴィルトゥオーゾの要望で大きくなったピアノ鍵盤を、一般のピアニストの元に戻そうということなのだ。

ショパンの手の石膏が残っている。ショパンの手を見ると、これは現代のピアノでは10度を届くのがやっとであるのだが、当時のピアノでは、容易に届いたのである。それを知らずにいると、ショパンに対する理解が不正確になってしまうだろう。

その後、19世紀後半からの欧米列強が植民地を広げていく時代に、男尊女卑的な偏向が強まって女性の社会的・文化的な活動領域を狭めようとするかのような動きがあった。

このことと直接的な因果関係は言えないのだけれど、まさにこの1850年代に、スタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインという後の3大ピアノメーカーとなるピアノメーカーが、不思議なことにピタリと歩調を合わせて、それ以前より大型の165mmピッチのピアノを作り始めたのである。

そして、この時以来ピアノの鍵盤は大きくなり165mmが標準とされたのである。

ピアノ鍵盤のデザインの不思議

いつも見ているにもかかわらず、どのような形状で鍵盤ができているか、ピアニストも知らないことがある。ピアノ鍵盤の黒鍵と白鍵の物理的な配置には、設計上の微妙な調整が施されており、特に黒鍵の白鍵の間に不規則に配置されている。

次に、標準の鍵盤の図を示す。これはC.Bechsteinの鍵盤であるが、SteinwayもYamahaもほぼ同じである。Cとあるのはドのことである。

今はまだ、鍵盤のサイズの話ではありません。さて、何か気づくことがありましたか?

黒鍵は白鍵の真ん中にあるものと思っていませんでしたか?

例えば、Gis(ソ#)は、両側の白鍵との真ん中にある。黒鍵で白鍵の真ん中にあるのは、Gisだけである。

ド#(Cis)とファ#(Fis)を比べてみると、ド#は左に寄っているけれど、ファ#はもっと左に寄っている。

白鍵の真ん中に黒鍵があるわけではないのであった。

黒鍵との間に指を入れた時に、指が入る幅をキープするために黒鍵をずらしているのだ。後述するが、黒鍵の間の白鍵は幅12mmになっている。

標準鍵盤について

サイズをラフではあるが、採寸してみた。0.5mmの単位で丸めている。もう少し微妙な加減はあるようにも見えた。

白鍵は全て同じ幅で、22.5mmである。隙間がおよそ1mmある。白鍵はおよそ14.7〜15cmの長さがあり、黒鍵はおよそ9.5cmである。

黒鍵は、白鍵の間に切ってある黒鍵のための隙間が14mm程度で、黒鍵の根元の幅は12mm、トップは10mm程度である。黒鍵の頭を指で押すためには、実は思いの外、狭いところでフィットさせなければいけないということが分かった。

黒鍵の上を細くしなくてもいいと思うのだけれども、これは細幅鍵盤を求める人たちの感覚である。黒鍵を台形にするのは太い指を押し込むためであるので、およそ世界の半数の人々には不要な配慮である。黒鍵は四角いままチェンバロのような形状にしたら弾きやすいのではないかと思う。

繰り返して言うと、現在の標準鍵盤は、19世紀後半以降のピアノのヴィルトゥオーゾに合わせた特異的なサイズ設定であって、それは手の小さい人々のピアノ界への参入を阻むこととなり、手の小さな人、および女性への影響が大きかった。

ピアノ鍵盤のデザインの実寸

下記に実寸を示す。これはC.Bechsteinのピアノであるが、他のピアノもほぼ同寸である。ただし、0.5mm以下は正確に計測できていないので、丸めた数字となっている。

これはC.Bechsteinで計測したけれども、SteinwayもYAMAHAも基本的に鍵盤サイズ設計は同じだ。サイズが違ってはピアニストが困るのである。

ピアノ鍵盤の種類

標準の鍵盤のサイズと共に、理論値の15/16、Steinbuhlerの15/16、理論値の7/8、Steinbuhlerの7/8、これらの各鍵盤サイズのオクターブの長さを「オクターブ・ピッチ」として示した。また、標準鍵盤を1とした場合の、比率を示した。Steinbuhlerはインチに合わせて調整を入れているようだ。

オクターブ・
ピッチ(mm)
比率
標準 165.0 1.000
15/16 154.7 0.938
Steinbuhler 15/16 152.4 0.924
7/8 144.4 0.875
Steinbuhler 7/8 140.7 0.853

細幅鍵盤の実際のサイズを比較する

比較しやすいような画像を次に作成した。15/16と7/8はSteinbuhlerに合わせてある。

かなり、幅は違う。こんなに違うのかというくらいだ。18世紀のピアノのサイズは、おおよそ15/16に近い。

鍵盤幅の多様性が広がることは、大きな可能性だと思う。細幅鍵盤の普及活動を続けていって、細幅鍵盤を本当に普及させたいと思う。中田喜直氏も手が小さかったので、細幅鍵盤を推奨していた。

次の記事:「【細幅鍵盤5】モーツァルトのピアノも細幅鍵盤だった!

 


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