【細幅鍵盤1】幅の狭い鍵盤のピアノ

幅の狭い鍵盤のピアノがあるのをご存知だろうか。小さいサイズの鍵盤がある、あるいはあったということは聞いたことがあった。

でもそれは、子供の練習用か何かかと思っていたが、全くの誤解だった。

細幅鍵盤とは何か?

鍵盤の幅が標準サイズよりも細い鍵盤のことを細幅鍵盤という。どのくらい細いかというと、鍵盤のサイズには幾つかの種類がある。

Youtubeでは “Reduced size keyboard” と言って Steinbuhler というピアノが紹介されていた。15/16と7/8があるという。ドイツ風の名前だけどアメリカのブランドである。

サイズの違いが分かるように次のような図にしてみた。

reduced-size-keyboard-03b

ちなみに、現代のピアノ鍵盤はオクターブの白鍵7個分で約6.5インチ、約165mmである。

細幅鍵盤であっても音色や性能は全く同じ

よく誤解されることがある。専用の小さなピアノを想像する人がいるが、そんなことはない。

鍵盤は細いわけだけれど、ピアノの本体は何も小さいわけではない。ピアノの響板や鉄骨は全く同じもので、ハンマーも同じ、ただ鍵盤の幅だけが細いのである。

ピアノは、数多くの複雑な部品から構成されている。ピアノの鍵盤とハンマーのアクションは、ピアノ本体に置くように載せて取り付けられており、簡単に取り外すことができるようになっている。

細幅鍵盤も通常のピアノに交換取り付けができる。コンサート会場で交換する事例もあり、数分で交換できていたようだ。

鍵盤を変えてももちろん調律には全く影響を与えないので、そのまま演奏が可能である。

自分の好むピアノを持ち歩けないけれども、ピアノアクションと鍵盤を持っていくことは十分に可能である。アクション部分は、木材とフェルトなので大人が一人で持てる重量である。

ピアノのメーカーやモデルによって形は異なるから、もちろんすべてに合うわけではないけれど、そんな自由な世界への道は開けているのだ。

鍵盤の幅を歴史的に見ると

ピアノが生まれる前のチェンバロの時代には鍵盤の黒と白が逆だったのだが、サイズも今とは違っていた。国や地域ごとにピッチも異なり、同様に、サイズも大小の隔たりがあった。

イタリアやフランドルのチェンバロでは3オクターヴで約50cmというので、現代のピアノよりほんの少しだけ大きいが、18世紀のフランスのチェンバロでは3オクターヴで約47.7cmが多かったらしい。

そして、ピアノもやはり19世紀にはいろいろなサイズがあった。現代の常識で考えてしまうので、当時のことがなかなかイメージできなくなっている。度量衡の単位も様々であれば、楽器のサイズも様々であったのだ。サイズには決まりがなかった。

このように、いろいろなサイズの鍵盤があったわけだが、それがいつの間にか、一番大きな手の人用のピアノが標準となって残ったのだ。真ん中が残らずに一番大きなサイズが残ったのいうのは大変に不思議だ。

その背景には、リストとかルービンシュタインなど手が大きな名ピアニストの発言力が強く、また音楽家たちには男性が多く、幅の大きな鍵盤が好まれたため、三大ピアノメーカーといわれるスタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインも幅の大きな鍵盤を標準として製作するようになったようだ。

現代のピアノ鍵盤はオクターブ(白鍵で7個分)の幅は約6.5インチ、約165mmである。ベートーヴェンが使っていたピアノはオクターブが約6.25インチ、約159mmだったという。

ポーランドに残るショパンのピアノも少し幅が狭かった。鍵盤の幅は狭いものが、かつてはたくさんあったということだ。むしろそれが普通であったと言って良いだろうと思う。ショパンの手は、特別大きな手ではなかった。

細幅鍵盤のメリット

白鍵でぎりぎり10度が届くか届かないか位の人にとっては、オクターブのメロディーを小指と薬指を使ってレガートで弾けたり、10度の音程をさっと押さえられることは夢のようなことだ。

手が小さくてもピアノの才能を持った人はいるのだ。子供の時はいつか手は大きくなるものと思っていても、手が大きくならずにプロのピアニストになる道を諦める人がいる。無理をして指を広げていて、手を痛めてしまう人もいる。

これはとても悲しいことだと思う。正確には分からないが、世界の1/4くらいの人は10度が届かないのではないだろうか。

白鍵から10度上の白鍵にはぎりぎり届いても、CisからEへの10度は届かないという人を含めると、もっと多いかもしれない。

これは何だか大変な不平等ではないかと感じられる。
しかも、19世紀の半ばまではピアノの鍵盤はもっと細かったのである。

音楽はもっと自由で開かれたものであるべきだと思う。手の大きさで排除することには賛成できない。

 

次の記事に続く「【細幅鍵盤2】ショパンのピアノは細幅鍵盤、ベートーベンも細幅だった!

 

参考:とても素敵な動画である。
Youtube – Reduced size keyboard Part 1

Youtube – Reduced size keyboard Part 2

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