「酸性、アルカリ性、中性とは何か?pHとは?」で酸性とアルカリ性についてまとめた。しかし、化学でいう酸性・アルカリ性という液性と、食品とは全く考え方が違う。
食品のpHとは何か?
食品の酸性・アルカリ性というのは、元となる食品のpH(水素イオン濃度)とはあまり関係がない。
元々は、スイスの生理学者グスタフ・フォン・ブンゲが、肉を食べると体が酸性化するので、アルカリ性のミネラルを摂取する必要があると考えたことが始まりである。
現在の医学・生理学界では、アルカリ性食品という健康法の効果を認める意見はほとんどない。ミネラルは個別に必要性があるため、アルカリ性食品に含まれる物質の健康効果を否定するわけではないが、「アルカリ性食品」と一括りにした表現は意味がないとされている。
食品を燃やした灰を水に溶かしてpHを計測したものが、食品の酸性・アルカリ性である。梅干しは酸っぱいので酸性であるが、食品としての計測ではアルカリ性になる。梅干しを燃やした灰を計測するからである。
お酢は酢酸でできているが、これは燃やせば蒸発してしまうので、残らない。あくまでも、一旦燃焼させた後に、残った物質だけで測るということだ。
不思議な体内バランス
酸性の食べ物を大量に摂取すると、尿が酸性になって酸性の物質を排出する。アルカリ性のものを大量に摂取した場合は、その逆にアルカリ性の尿となって体外に排出して、体液のpHを弱アルカリに保つのである。
多くの野菜、あるいは味噌や梅干しのようなアルカリ性食品の必要性を訴える人々もいるけれども、それはアルカリ性だから良いというわけではなくて、ビタミン、ミネラルやポリフェノールなどを含む食品が多いことによる。
酸性の食品を大量に食べていても、体液が酸性に傾いたというデータはないようだ。体液のpHが大きく変化するようなことがあったら、それは生死に関わることなのだ。
食品の摂取によって、体内の酸性とアルカリ性のバランスが崩れると、血漿・呼吸・腎臓により調節されるのである。この3つの調節機能により、体液の恒常性が保たれている。
食品添加物のリン酸
アルカリ性食品というのは、野菜が多い。野菜をとる目安にしても良い。また、カルシウム、鉄、マグネシムなどは体内でアルカリ性になり、リン、イオウ、塩素は酸性になる。
リンは必須の物質であるが多くの食品にリン酸(塩)という添加物として入っているので、現代人は過剰摂取になっていると言われる。アルカリ性食品は、現代人の食生活の偏りを是正するための指標としては分かりやすいかもしれない。
人体のいろいろな酸性・アルカリ性について
ヒトの肌は弱酸性、胃液は酸性、血液は弱アルカリ性、腸内はアルカリ性と人体にはさまざまなpHはある。
皮膚は弱酸性
ヒトの皮膚には常在菌がいて、およそ1兆個以上いると言う。皮膚にいる菌は、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、黄色ブドウ球菌などが多くいる。
表皮ブドウ球菌は、皮脂をトリグリセリド、脂肪酸、グリセリンに分解して、皮膚を弱酸性に保つ。アルカリ性になると悪性の強い病原菌がはびこるのを防ぐ。
アクネ菌は、ニキビの原因菌であるが、通常は皮膚を守る役目を果たしている。思春期やストレスや偏食などで異常増殖して炎症を起こしたりする。
黄色ブドウ球菌は、通常は害を及ぼさないが、皮膚がアルカリ性になると活性化して、炎症やかゆみを起こす。洗いすぎや引っかき傷でアルカリ性になると注意が必要になる。食中毒やとびひの原因菌にもなる。
血液は弱アルカリ性
人間の血液は、海水を体内に取り込んだものだと言われることがあるが、今の海水とヒトの塩分濃度は大きく異なっている。海水の塩分が3.5%で、ヒトの血液塩分は0.9%前後である。
脊椎動物が陸に上がった3億6000万年前の地球の海の塩分濃度が1%弱だったので、その時を基準にするとほぼ同じ濃度だ。
pHについて言えば、ヒトの体液は、7.4pH ± 0.05 (7.35~7.45) に保たれていて、非常に狭い範囲にコントロールされている。それは、血液の液性が、この狭い範囲内にないと生きてはいけないからだ。
pHが7.5以上になるとアルカローシス、pHが7.3以下の場合にはアシドーシスと言って、生命にとって非常に危険な状態に陥ってしまう。
先ほど、二酸化炭素が溶け込んだ水は酸性になると説明した。酸素と二酸化炭素をガスとして交換するのは肺の機能である一方で、腎臓も体液のバランスをとるように体外に排出することで調節する機能を持っている。
体液は、この二つの臓器の働きで変化していく。肺が二酸化炭素排出と酸素の取り込みを行っているので、ここで一時的な血液のpHが決定する。このpHが酸性かアルカリ性に傾いていると、腎臓が正常化しようと働く。(順序関係を示しているわけではない。)
海水のpHはおおよそ8.1であり、ヒトの体液は7.4pH ± 0.05なので、もう現代の海は母ではなく、遠く彼方の先祖となった。さらにこれからヒトはどうなっていくのか?
腸内はアルカリ性
さて、腸液はアルカリ性である。ふうむ、そんなこと考えてもいなかった、という人が多いようだ。
下痢をするとお尻がヒリヒリするのは、アルカリ性の腸液がそのまま肛門に到達するからで、肛門の周辺の皮膚のタンパク質を溶かしてしまうことで炎症するからだ。
胃壁は強酸性に耐えられるよう、胃の内側の粘膜から粘液を出して0.5mmの膜を作って守っているのである。
同じように、腸も強いアルカリ性の液体に耐性があるのかと思えば、実はそういうことではない。実に、腸内の細胞はほぼ1日で死んでしまう。
うんちの構成要素は、水分が約60〜65%、腸壁細胞の死骸が15〜20%、腸内細菌の死骸が15〜20%、食べ物の残りカスが約5%と言われている。
(いろいろなデータがあり、個人差も大きいと考えられる。)
腸液の強いアルカリ性は腸内細菌のため
腸液がアルカリ性である理由はいろいろと考えられる。胃液が強酸性であるので、後工程で中和できるようにという考え方がまずある。
しかしながら、腸内細菌の働きとして考えられていることは、以下の通り多岐にわたっている。
・食べ物の消化・吸収や便の形成
・ビタミンの生成(B2、B6、B12、ビタミンK、葉酸・・・)
・脳内伝達物質の合成(ドーパミン、セロトニン)
・免疫機能の維持
・必須アミノ酸・酵素の合成
・腸の蠕動運動の促進
ヒトが生きるためのかなり重要な部分が腸内細菌に肩代わりしてもらっているようだ。腸内細菌は、1000種類以上あり、その数は100兆個以上と言われる。
この腸内細菌と共生することがヒトにとって、とても重要なことであるから、これが最優先事項となって、腸内細菌のために動いているようになったと考えるのが妥当ではないか。
腸内の乳酸菌をはじめとする腸内細菌の働きを助けるのが、アルカリ性である。乳酸菌が働いた後にできる物質が乳酸で、これは酸性である。乳酸菌は、酸性の環境ではうまく増殖できないことが知られている。
そのためにヒトの腸では、腸内細菌が生活しやすいようにアルカリ性の液体を分泌するようにして、たとえは悪いがそのために腸壁細胞には1日で死んでもらうことになったのである。
腸内細菌は人が生きていくために必須だが、ヒトとは別の生物群なので、人によっても保有し生育する細菌の種類も異なる。研究はまだあまり進んでいない。未知のことが多い。
食品と酸性・アルカリ性についてのまとめ
体内には強酸性も強アルカリ性もあり、それぞれの物質を作るために必要な元素がある。食品の摂取に仕方で、体内の液性が酸性やアルカリ性に傾くことはないというのは、結果論である。
つまり、アルカリ性を作り出すための陽イオンとなる元素が足りない時には、体内では作りようがないわけである。そういう時には、例えば骨やその他の部分から物質が調達される。栄養素が極端に偏ったまま、その状態を続けることは危険だ。
人間のからだ全体を良い状態に保つには、食品の酸性・アルカリ性にこだわらずに、栄養のバランスを保つことが大切だということである。
酸性・アルカリ性についてはこちら → 「酸性、アルカリ性、中性とは何か?pHとは?」
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