食品添加物表示制度が改正され「無添加」「不使用」が規制
この10数年に渡って、次第に地位と認知度を拡大させて来た、食品の「無添加」という表記に対して、国からの制限が加えられることになった。
不適切な無添加表示を規制して消費者の誤認を防ぐことと、食品添加物への消費者の不安を解消することが目的であるようだ。
2022年4月以降の製造分から適用され、2年間の経過措置がある。
食品成分表示の「無添加」「不使用」規制の背景
消費者庁では、2022年3月に食品の成分表示に誤解を招くとして、「無添加」や「○○不使用」などの表記を厳格に規制すると発表した。
「無添加」という表記が、そうではないものに比べてより健康に良いというイメージを消費者に与えてしまうからだという。添加物を使っている食品のイメージが低下して、販売量が落ちていることに対応した国の施策である。その意味では、大手食品会社よりの支援であるとも言える。
「無添加」という健康イメージ・好感度は、ここ10年余りの間に大きく伸長した。無添加の食品は、10数年前には種類が少なく、価格も倍近くすることが多かったが、今では品数も増え、価格差も小さくなった。
添加物を使わなくても、安全な材料を使って、きちんと衛生管理を行えば、安全な食品が作れるということは、多くの消費者の知るところとなった。
食品メーカーの立場からは、国が安全性を確認した添加物を使って食中毒などのリスクを回避しようとするのは合理的で適正だ。添加物を使用することで安全を担保しているのであって、単なる利益の追求だけではないという主張である。
ところが、無添加が価値の高いものとして消費者に認知されてくると、それを利用しようとする業者が現れる。正直とは言えない業者が、不適切な、あるいはまぎらわしい表示をすることで、消費者を混乱させたり、誤認させたりするケースが増えてきた。
そもそも、「無添加」という表現は、今まで食品成分表示では定義されていなかったので、塩を入れてないと言って「塩 無添加」などというのも、奇妙な表示である。塩はもともと添加物ではないので、塩を入れなくても無添加ではない。かなり、いい加減であったことも確かだ。
そんな事情もあって「不使用」という言葉も使われるようになった。この「不使用」表記も併せて、規制されることになった。
「無添加」「不使用」表記を規制する意図
「無添加」「不使用」という表現に、基準を設けて適正に表示されるようにすることは意義がある。
食品添加物は、用途に応じて個々に使用可能か使用不可かが決められている。ソーセージと清涼飲料水では使用可能な添加物は異なる。多くの消費者は食品添加物について多くの知識があるわけではない。
そこにつけ込んで、無添加とは言い難いのに、無添加と表示しているケースがあったり、使用不可の添加物を無添加と表示したりするケースがある。消費者を誤認させるような表記は規制して欲しい。
また、食品添加物が必ずしも悪というわけではない。スポーツドリンクにも、塩化カリウム、塩化マグネシウム、アミノ酸とか酸化防止剤(ビタミンC)などが入っており、これらが無ければただのうす甘い水となる。
ただ昨今の食品業界は、添加物を多種・大量に使用することが当たり前になっていることに不安を感じるの事実である。「醤油風味せんべい」を着色料で茶色に染めて、香料で香りを付けているのは、醤油を使っていないからである。醤油を使って「醤油せんべい」にすれば良いのではないかと思ってしまう。
無添加は優れているという価値観が広まってくることで、業者もそこにつけ込んでくるし、また業者が「無添加」を強調することにより、消費者は「無添加が優れている」というイメージを一層強化されることになる。
無添加というイメージだけが、実態とは離れたところで進んで行ってしまうことは国としても歓迎しないということだ。
そこで、無添加という定義のない表記にルールを持たせて、インチキな無添加表記を規制する一方で、消費者も安易に無添加に飛びつかないようになるような環境を作っていこうということである。
さらに一段階進んで、消費者庁は、消費者が「無添加」という表示を見て、「無添加ではないもの」に対して優れているとか、安全性が高いとか、体に良いとか、そのような誤解がおきないようにしたいという。
食品添加物の安全性については、国の責任で確認して認可したにもかかわらず、安全ではないなどとお上に楯突くようなことは不謹慎である、という風にも聞こえる。
大手食品メーカーのメリット 対 消費者のデメリット
「無添加」という表示が規制されれば、「無添加」食品の添加物を使用した食品のイメージが目立たなくなり、無添加とそうではないものとの差が表のパッケージからはなくなる。消費者は、裏面ではなく、表面のパッケージの情報で消費行動が大きく左右される。スーパーで裏面を細かく読んでいる人は少ない。
「無添加食品」と「添加物食品」の差が、目立たなくなれば、無添加食品の高価格に見合う価値を消費者に訴求できずに、売れ行きは低下することが予想される。
すると、健康への安全という価値を訴求して「無添加」を標榜していた商品は、競争力を失っていくのではないか? そうなると、今まで無添加で努力して来た食品メーカーは、苦境に立たされることになる。
その結果、大量の添加物に頼る大手食品メーカーの権益が、より一層大きくなることになりそうだ。そして、私たちにとっての一番の痛手は、無添加の食品が減ってしまうこと、価格が上がることである。
消費者に誤解を与えるとされた10のポイント
消費者庁の「無添加」「不使用」規制では、10のカテゴリーが示された。
(1)単なる「無添加」の表示
(2)食品表示基準に規定のない用語を使用した表示
(3)食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
(4)同一または類似の機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
(5)同一または類似の機能を持つ原材料を使用した食品への表示
(6)「健康」や「安全」と関連付ける表示
(7)「健康」「安全」以外と関連付ける表示
(8)食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
(9)「加工助剤」「キャリーオーバー」として使用されている食品への表示
(10)過度に強調された表示
各項目にはそれぞれ適切な理由があり、一見して不合理なものはない。しかし、どれだけ厳密に解釈されるのか、その程度はまだよく分からない。いずれ罰則も適用されるとのことで、食品メーカーにとっては慎重にならざるを得ないだろう。
(1)単なる「無添加」の表示
「無添加」とだけ表記されており、何が無添加なのか明記されていないようなケースをいう。何が添加されていないのか明確にせよということだ。
説明もなく、ただ「無添加」とだけ表示されている場合に、是正対象になることが示唆されている。
(2)食品表示基準に規定のない用語を使用した表示
人工、合成、化学などに対しては悪いイメージがあり、天然というのは良いイメージがあるが、どちらも定義されていない曖昧な言葉なので使わないように、という指導である。
「合成着色料 無添加」や「化学調味料は使用していません」などが是正対象となる。
(3)食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
そもそも使用の認められていない添加物を使用していないことを、無添加と表記するのは認められないということだ。マヨネーズには本来香料を使用することはできないのに、「香料 無添加」と表記するのがこれに該当する。つまり、他のマヨネーズも当然香料の使用は規制されているので使用していないにも関わらず、「香料 無添加」と表記すると他のマヨネーズよりも優良だと誤認させる恐れがあるということ。
(4)同一または類似の機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
「保存料 無添加」という食品があって、その原材料に「うるち米(国産)、調味梅干し、・・・、グリシン」というようなケースが挙げられている。グリシンという食品添加物としては「調味料、強化剤、製造用剤」の用途で使用されるが、保存の効果も期待できる。
この場合は、グリシンという添加物が「保存料」という分類になっていなくても、「保存料としての効果」が期待されて使用されているということを知らなければ、この保存料無添加という表記が他の商品よりも優れていると誤認させる恐れがある。
(5)同一または類似の機能を持つ原材料を使用した食品への表示
「調味料(アミノ酸等)無添加」という食品の原材料が、「醤油(国内製造)、本みりん、・・・、酵母エキス」のようなケースが例示される。酵母エキスというのは、アミノ酸が主成分であるので、酵母エキスを添加するのは、アミノ酸添加に相当するという問題である。
一般の人は、酵母エキスの主成分はアミノ酸であるということを知らないだろうから、事実誤認を招く恐れがある。酵母エキスは添加物には分されておらず、食品という扱いになっているが、うまみ調味料に非常に近い物質である。酵母エキスは、無添加を名乗れる抜け穴になっている。
(6)「健康」や「安全」と関連付ける表示
「無添加」という表記が「安全」をイメージさせる場合に、是正される。「無添加だから安心」とか「無添加なので健康に良い」という表記は、規制によって排除される。ここに多くの「無添加」の表示がひっかかる可能性がある。
「体に優しい着色料無添加」や「調味料(アミノ酸等)は使用していないので安全です」などが是正対象だ。
(7)「健康」「安全」以外と関連付ける表示
「健康」「安全」以外に関連づけるというのは、一つには「おいしさ」、そのほか、色とか状態の変化などであろう。「着色料不使用だからおいしい」とか、「着色料無添加なので変色することがあります」などがこれに当たる。
(8)食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
一般的に添加物の使用が予期できないような状況で、添加物を使用していないことをあえて表記しているようなケースがこれにあたる。「飲料水」に「着色料不使用」などの表記がある場合だ。
清涼飲料水ではないので、水に着色料を使わないことは多くの人が知っていると思われるが、にもかかわらずあえて「着色料不使用」の表示をしているのは是正対象となる。
(9)「加工助剤」「キャリーオーバー」として使用されている食品への表示
加工助剤やキャリーオーバーについて添加物が確認できていないのに、自社の工程のみで「無添加」であるからと、「無添加」と表記するのは是正対象となる。加工助剤とキャリーオーバーについてはこちら。
キャリーオーバーをわかりやすく説明すると、お弁当の原材料の中に「ご飯(国産米使用)、ハンバーグ、コロッケ、・・・」などたくさん記載されているが、ハンバーグは原材料だということなのだ。調理済のハンバーグを原材料として調達して全体のお弁当というセットを組み上げているのである。そうでなければ、原材料は、牛肉や豚肉、玉ねぎ、パン粉、などになるはずである。
ハンバーグ製造業者から調達したハンバーグは、キャリーオーバーで、お弁当という食品の原材料には、それらの添加物については表記されない。
原材料に「原材料:米、しょうゆ」と表示されていても、無添加とは限らない。醤油は調達した材料だからだ。
(10)過度に強調された表示
「添加物不使用」「香料 無添加」「無着色」など多数の表示があったり、大きなフォントや目立つ色などで過度に強調されている場合がこれにあたる。
消費者が、原材料表示を見る妨げになるような場合には、消費者が事実誤認する恐れがあるということだ。
安全を志すために
「無添加」という言葉に、軽いイメージとしてだけ反応している人々は、この施策で無添加から離れていくかもしれない。しかし、無添加ということに、前向きに向き合っている人たちも多いだろう。
私たちは、「無添加」表示はなくなっても、成分表示を確認して、冷静に判断して行きたい。食の安全に関心の高い人たちは、無添加の表示があるかないかに関わらず、裏面の成分表示を必ず確かめるはずだ。
別に、「無添加」という表示がなくなっても、成分表示が正確であれば良いのである。だから、「香料」や「pH調整剤」など、成分の実態を明かさなくて良いという一括名表示(注)を個別表示に改めていくよう、意見をまとめ主張していく必要があると思う。
政府や消費者庁は、必ずしも消費者の目線に立っているわけではない。長期的な利益を目指しているのだろうが、一時的に消費者の利益を損なう可能性もないわけではない。食品のに関わる政策については、今後も注視していく必要があるだろう。
(注)一括名表示には、以下のように多数ある。これらは成分を表示しなくても次の「一括名」のみ表示すれば良いことになっている。
「イーストフード、ガムベース、かんすい、酵素、光沢剤、香料、酸味料、調味料、豆腐用凝固剤、苦味料、乳化剤、pH調整剤、膨張剤、軟化剤」
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