オルガンにも調律という作業がある。パイプは金属だし、温度によるピッチの高低はあるにしても、安定しているので、ピアノのように頻繁に調律する事はない。
オルガンは調律するたびに音が高くなる?
現代のオルガンでは、調律するたびに音が高くなるということはない。声楽やオーケストラなどと合わせるためには、一定のピッチで調律されるのである。
しかし、バロック期のオルガンは調律するたびにピッチが上がったという記録がある。オルガンは、ピアノのように頻繁には調律の必要がないとはいえ、それでも時間が経つとずれてくるので調律する必要がある。
バロックの時代から教会に残っているオルガンは、バロックのピッチでA=415Hzかと言えば、そういうわけでもない。
もっと低いこともあれば、もっと高いものもある。バロックピッチについては、「なぜバロック調律は415Hzになったのか?」を参照ください。
オルガンの調律というのは、パイプの長さを調節することで行う。パイプを長くすることは難しいので、パイプは短くする方向で調律された。ただし、バロック期にもいくつかの方法でピッチを上げずに調律することもできた。
17世紀頃のサン・マルコ寺院の逸話として、頻繁に調律された結果、同市の他のオルガンよりも1全音も高くなったという。慌てて、調律をしたのだろうか。高い方のピッチに合わせていき、パイプを短くしていった結果、全体の音が少しずつ高くなったのである。
(音叉が発明されたのは、18世紀に入って1711年のことである。イギリスのジョン・ショアが自らのリュートのために作成したとされる。だから、その頃、17世紀にはまだピッチを一定のものとして捉えるという知識がなかったのである。)
オルガンの音が高くなると歌えなくなる
教会のオルガンのピッチがどんどん高くなっていくと、今度は合唱が音が高くて歌いにくくなる。すると、今度は音を下げる必要が出てくる。
バロック期にはオルガンと合わせる管楽器が少なかったので、もっぱら合唱との調整であったようだ。
管楽器と合奏するのであれば、ある程度高くなると管楽器側のピッチ調整ができなくなってしまう。
管楽器のピッチは管のジョイントを緩めて音程を下げて調整する。ジョイントいっぱいまで差し込んだら、もう音を高くすることはできなくなる。
オルガンのピッチが高くなりすぎたら大修理
バロック期には、パイプオルガンのピッチが高くなりすぎると、一番短い管(つまり、一番高い音)を外して、その他のパイプを1個ずつずらすのである。そして一番低い音に一番長い管を新しく作って取り付ける。これは大修理である。
古いオルガンは、中世からそれ自体が貴重な歴史的文化財でもあり、同時にキリスト教の世界においても貴重な文化財であるので、古いパイプを簡単に捨てたりはしない。
ずらしても大丈夫なの? と思った人は古典調律の知識のある人です。現代の機械的平均律であればそれで良いのだが、バロック期の調律は不均等だった。
もちろん、ずらすだけでは駄目で全部のパイプを調律・整音するわけである。ただ、現代ではパイプを隣にずらすことはしない。現代では、ピッチは数値として決まっていて、相対的に音程が合っていれば良いというわけではない。415Hzだとか440Hzであるとか、指定されたピッチに合わせるのである。
オルガンは永遠なり
それにしても、長い年月を経て、何度も調律されていくうちに、ちょっとずつ短くなっていく、と想像してみる。ちょっとずつ短くなると想像するのはファンタジーとしての魅力がある。
何百年、何千年と音を響かせていき、今一番長いパイプが、いつか一番短くなる時期が来るのかもしれない、と考えると、永遠なるオルガンがたどる悠久の時の流れというのはなんと素敵なのだろうと思う。
関連記事:
・「なぜバロック調律は415Hzになったのか?」
・「平均律と古典調律とは何か?」
・「世界で最初のピアノ」
この記事はどなたがお書きになったのでしょうか。
はっきり言ってパイプオルガンのは調律をする度に
ピッチが高くなるということはありません。
このような間違ったことを知らない人が読むとそのまま信じてしまいます。訂正をお願いいたします。
ご指摘ありがとうございます。
現代のパイプオルガンの調律では、ピッチが高くなることはないことは承知しております。むしろ、一定のピッチに合わせるのだということを多くの方がご存知だったかと思います。しかし、この記事ではそのことが明記されていなかったので、冒頭部分で加筆して訂正いたしました。
バロックの時代には一定のピッチの基準というものがなかったので、a’=388Hzの低い調律もあれば440Hzよりもずっと高い調律もあったようです。17世紀のヴェネチアのサン・マルコ寺院の逸話として、パイプを短くしながら調律していき一全音くらい高くなったということが、橋本英二『バロックから初期古典派までの音楽の奏法』(音楽之友社)に書かれております。この事例が、バロック期のオルガン全般に一般化できるのかどうかはまた別の課題ということかと思います。