日本の人手不足と最低賃金〜低すぎる賃金・企業努力不足が日本経済の停滞を招く

日本では人手不足だと多くの人が言う。特に経済界が言う。

しかし、日本の労働力が人数という点で不足しているわけではない。安い時給で働く人がいないと言っているのだ。それはおかしいではないか。

実は人手不足ではない・・・

企業など民間の組織では、今までやすい賃金で人を雇ってきたので、それをずっと続けたいという欲求があるわけだが、実は今まで企業側がずっと甘い汁を吸ってきたとも言える。

優秀な学生たちが時給1000円程度でアルバイトしていて、その人たちが店長レベルの仕事をするようになったり、実際に店長となってマネージャーの仕事をすることもある。少子化で学生が減ってきたので、学生アルバイトが集められなくなった。

また物流では運転手に過酷な勤務時間を強いてきた。多くの企業では成果と報酬の関係が明確になっていない。成果と報酬の関係というと、働いている人たちは、常に上司から成果を出していないと思い込まされている。昇給を抑えるためだ。

でも実はその逆で、大抵の場合は、企業は多くの利益をあげているのに、働き手の賃金が十分に支払われていないという問題がある。企業努力をせずに、ただ労働力を安く抑えようという、根本的に誤った経営体質である。

企業努力をしない経営者たちの見方となっている議員たちが人手不足を吹聴している。そもそも労働人口が減って来ているという事実はない。日本人の人口も減っていない。1995年から2016年にかけて人口は約10%増加し、労働人口は0.1%増加した。労働人口は全く減っていないのだ。

最低賃金は1500円以上にすべき

日本では、先進国であるにもかかわらず、最低賃金が極めて低い。最低賃金の最低価格をもっと高いレベルに強制すべきなのだ。1500円以上にするのが適正なのではないだろうか。

時給1500円としても1日8時間フルに働いて日給12000円で、週休2日をベースに適度な休暇を取得できるようにすると、年間の労働日を240日とすると、年収は288万円。税金や年金等を引いて、手取りは月あたり20万円弱となる。一人暮らしでぎりぎりのラインだ。

年間働き通して月20万円の収入から、さらに電気・ガス・水道と家賃、そして日々の食費もかかるし、衣服も必要だ。おおよそ、このあたりが最低限となるだろう。今の時給1000円というのはありえない数字だ。2016年OECDの世界ランキングでは1位がフランス、2位オーストラリア、3位ルクセンブルク。日本は11位だが先進国としては最低ラインにいる。

つらい仕事やきつい仕事を安い賃金のままで働き手を探しても見つからないというので、海外から人を集めようというのは、日本の政府や経済界は大変に傲慢なことをするという印象だ。看護師も保育士も介護士といった人をケアする職種が不足しているのだが、社会全体で賃金を上げていく必要がある。

安い賃金で働いてもらおうというのは理不尽であるが、ただ経営者の視点では、工場でも病院でも介護施設でも、給与を「利益を食いつぶすコスト」と捉えてしまうので、古い経営者は「労働者の賃金」を減らそうと考えてしまうようだ。

最低賃金を上げて競争力を上げる

こうした労働の需給の不均衡は、労働対価が折り合わないからであって、これは経済学の初歩である。労働市場では、当たり前だが雇用者側に採用の権限があるため、雇用者の指値で雇用が行われる。時給1000円で求人を出し、応募がなければ、労働契約には結びつかず、これだけで人手不足としてカウントしてしまう。

これは企業側の一方的な見方である。労働者からすると、時給1500円の仕事を探しても一つもなかったとなれば、すなわち求人が無いということになる。

人手不足ではないことは自明のことなのに、現在の自民党の政権が経済界の経営者の味方であるからなのか、企業の側の言葉をそのまま受け入れているようである。インターネットやテレビや雑誌で「人手不足」を訴える人々は多いが、根拠はあいまいで、簡単には信じられない。

現在の経営者が死ぬまで裕福でいたいとの思いで、低賃金を維持しようとしたら、日本企業の生産性向上の努力が阻害され、ひいては日本の経済のさらなる衰退につながる危険がある。

もうすでに1995年から2016年までの約20年で日本の世界に占めるGDPは37%に減ったのである。17.5%から6.5%に落ち込んだ。

労働価値をもっと評価して、最低賃金を上げれば、労働者の収入が上がり、企業の利益が下がる。企業の力が弱まる恐れもある。しかし、労働者の可処分所得が上がることで内需が活性化する効果も期待できる。

国は不平等の改善を

一般には1000円の時給を50%あげると、同じ原資で人を雇用しようとすると2/3の人しか雇えなくなる計算だ。

それを根拠に賃金の相場が上がっても失業率が増えるだけだという反論が考えられる。しかし、本当にそうなるとも限らない。最低賃金の法定最低価格を上げたことで失業率が上がる可能性が本当にあるならば、その対策をすれば良い。

失業率は経済成長の指標である。経済が安定的に成長していくと失業率は上がらず、賃金は上がる。

改善をしない口実にされてしまうのはこれまたおかしいことだ。それもこれも労働者個人のことを考えていないからなのだ。

企業は低水準の賃金で雇用できるのであれば、生産性を向上させる企業努力を行わなくて良い。楽な方に流れて来たということだろう。最低賃金が上がるのであれば、企業側は本来取り組むべき努力をして生産性をあげていかないとならない。

企業としては、1000円の作業が1500円になったら単純に減益となるので、ただ黙って過ごすわけにはいかない。1500円の労働にはそれに見合う生産量が必要なので、必然的に生産性の向上を迫られることになる。

そして、企業努力を促すのは国の仕事である。並行して、失業や構造的貧困にも対処していかないとならない。お金を支給することだけが対策ではない。構造的な不平等を改善することが第一だろう。

消費税のような間接税は、収入の低い家計には負担が大きくなる。所得格差を広げない施策が必要だ。かつてのトランプゲーム「大貧民」を「大富豪」と名前を変えても、本質は同じだ。累進性を強めた直接税にする方が良い。円安へ向けての誘導も効果が大きい。

20年後の社会

今までに労働人口は減っていないが、これから20年かけて労働人口が20%減るという試算がある。

AIやロボットがこれからどんどんと導入されていくと、人の仕事は減っていくだろう。逆に人は余ってくると考えられる。看護や介護などでもすべてを人が付いていなくても、ITやロボットで肩代わりできることも少なくない。今の看護や介護は労働が過酷である。

働く側もサービスを受ける側もどちらにとってもより良い道があるだろう。より良い方向を探るというベクトルにおいては、無責任ではなく楽観的に考えることができよう。つまり、利益も成長もそこには伴ってくるからだ。

日本のデータセンターを外国から来た技術者が見ると、なぜこんなにたくさんの人がいるのか、と驚く。何もモノを生産しているわけでもないのに、多くの人がバタバタと動き回って、大変にレベルが低い印象である。自動化が進まないのは、安い賃金で人を雇えるから、自動化するメリットがないのだ。

自動化し、人を減らし、その代わり賃金をあげ、高度な能力に見合った職種に作り変えていく。これはイコール企業の競争力を高めることにつながるので、今後は自動化が一層早く進んでいくだろう。そうすると20%減ってもまだ少し人が余ることになりそうだ。今、外国から慌てて流入を呼びかける必要性はないだろう。

企業努力が必要

労働者は個人なので、企業等との労働契約に際して工夫や知恵を働かせて効率化させる余地が少ないのである。これは誰でも分かることだ。1日8時間の仕事をするとして、その中でどれだけ効率化しても生産性をあげても、それは企業の利潤になる。

労働者1個人として、この1年間で収入を20%アップさせようと命じられたら、それは無謀である。転職しなければならない。転職するにしても、同じ給料を出してくれる会社を探すだけでもやっとだ。

でも、企業は、この1年で生産性を20%上げようと考えたならば、それはできるかもしれない。もちろん根性論や精神論は論外だ。企業はそもそも改善をするための組織なのである。日々、改善を続けるから業績が伸びて行くのである。例えていえば、100人の組織は大企業と比べれば中小かもしれないが、個人と比べれば100倍の人員がいる。知恵も100倍だ。

従業員をリスペクトする企業は伸びる

個人の待遇を改善して行くことで、企業は一旦は苦境に立つかというと実際にはそのようなことは考えられず、創意と工夫で乗り越えて行くだろうと思う。1945年の世界大戦後の復興ができたのである。あれだけの、苦境があったからその後の高度経済成長があったのではないか。

明確な因果関係を言うことはできないが、企業は多くの困難を超えて生き延びてきた。戦後はまず最初に製造業が牽引して復興の初期段階を立ち上げて、その後金融が花開いて、その後はITの全盛となった。時代の移り変わりによって、ある業種は死に絶え、そして新しい業種が生まれてくる。

消えてしまったかに見える業種も別のものに変貌を遂げて今も息づいていることもある。ドラスティックで過酷な業種転換があっても、総体としての日本経済は成長していくのである。

シニアの活用

時給1000円では動かないけれども、もう少し時給が上がれば立ち上がっても良いというのが、シニア世代だろう。年金は足りない、退職金は少ない、それでも寿命は伸びていくのである。

仕事があれば、短時間でも効率的にやりたい。シニア世代の保育士や介護士なども実は双方にとって効果があるという記事も目にした。子供や孫と接する世代が、乳幼児を見るのは経験値が高いので安心だという意見もある。シニアがする高齢者の介護も力はなくても、気持ちが分かるという利点がある。

最低賃金を上げると、従来のやり方をただそのまま続けてきた経営者は、ブーブーと文句を言うだろうが、企業はそれを乗り越えられるはずだ。その時に、乗り越えられる企業と淘汰される企業が出てくることは予想される。

個人としては、このハードルを企業に課して、乗り越えられるか、乗り越えられないかを試験したい。そもそも、現在のGAFAをはじめ、数ある情報産業は、製造・金融がピークを迎えた頃に急成長してきた。

日本の経済産業省や総務省、金融庁や厚労省、どこを見ても、消費者保護ではなくて、企業保護の政策になっている。総務省のスマホ対策も消費者保護になっていない。厚労省の医療対策も病院経営を守るための施策になっている。

企業のため、個人のため?

日本では、企業を守ることが社会の安定につながり、ひいてはそこの属する労働者の安定につながる、というロジックを主張する。ここが日本人でないと分かりにくいところで、ヨーロッパであれば、逆になる。個人の生活を守るから、企業が業績を出すことができ、社会の安定につながるのである。

どちらの論理が好きですか? (取り組む順番、因果関係を示している)
・社会の安定→企業の安定→個人の安定【日本的社会秩序】
・個人の安定→企業の安定→社会の安定【ヨーロッパ的社会秩序】

まとめ

・最低賃金を上げることは、企業努力を促す
・企業が生産性を上げると、国際競争力も高まる
・国は働き手を守るために、社会の不平等を改善すべし
・企業の生産性向上は、必要労働力を減少させる
・少数の働き手が、より高度な業務をこなす
・将来において労働人口が減少するが、必要労働力も減っている

最終的には、経済成長によって得られる収入を、減少してく人口で割るのであるから、一人当たりの収入はだんだんと増えることになる。これを実現するためには、企業の生産性向上、経済の成長もしくは安定、より平等な分配方法が必要になるということだ。

作成:2019年7月31日

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