温度と湿度の調節はなかなか大変だ。健康や楽器などへの影響も大きい。ヨーロッパの冬の湿度はものすごく低くて、ピアノの響板が割れるとか、ヴァイオリンの指板が剥がれやすいなどと言われることがあるが、はたして本当なのだろうか?
温度と湿度について
日本で聞いた話なので、ヨーロッパの楽器が割れる話には、半信半疑であった。しかし、湿度について研究していると、いろいろと腑に落ちないことが出てきた。
ヨーロッパの冬の低湿度はものすごいので、ピアノの響板が割れることがあるとか、ヴァイオリンの指板が剥がれやすいとか言う人がいるのを時々聞くと、その度に、何か変だなと思うのである。本当にそうだったのかな?
今は東京にいるので、冬は雨はめったに降らない。カラカラである。関東地方の冬の乾燥は凄まじいものがある。
ヨーロッパの冬の気候
本当にヨーロッパの冬は乾燥しているのか、というと必ずしもそうではないことが分かった。
ヨーロッパにおいては、夏の気温と湿度が低く、冬は夏よりも湿度が高い。ここで言う湿度とは相対湿度である。普通の人は、相対湿度以外を話すことがない。
それにしても湿度自体が日本語の観光ガイドを調べても全く出て来なかった。どのサイトを見ても、書かれているのは、月の平均気温と月間降水量であった。これは日本人の関心が高くてそうなっているのか、ただ単に得やすい情報だったからなのか、いずれにしても湿度に対して無頓着なのは大変に残念である。
逆に、海外の気候(climate)のページでは、wet, dry or normalくらいに単純化されているが、高い頻度で表記されている。ただし、月平均湿度が何%などの具体的な数値情報は、海外の観光ページではなかなか見つからなかった。
今回は、”World Weather & Climate Information“のデータを基とした。数字がない場合が多く、その際にはグラフから概数を読み取って、当サイト独自に作成した。
ヨーロッパの冬は低湿度ではなかった!
よくヨーロッパは湿度が低いから夏も過ごしやすいとか言う人がいるが、実は普通に言うところの相対湿度は決して低くはないのである。
相対湿度の表を作成したので見てもらおう。主要都市として以下の都市を選んだ。London, Dublin, Paris, Rome, Milan, Geneva, Vienna, Munich, Berlin, Brussels, Copenhagen, Stockholm。そして、比較のためにTokyoを追加してある。東京は赤い点線で描いている。
1本だけ山形になっているのが東京のグラフで、その他のグラフがヨーロッパ各地の相対湿度のグラフである。ヨーロッパの湿度グラフはV字型が特徴だ。それとは真逆で、東京の湿度グラフは山型である。
東京は、どの月を見ても相対湿度ではトップになっていない。では東京は湿度は低いのか? と言えばもちろんそんなことはなくて、もうここまでいろいろと説明をしてきたので、もうくどいことは言わない。
実際のところはさておき、このグラフだけを見ただけでは、日本が夏は高湿度で不快指数が高く、冬は乾燥がひどくこれもまた居心地の悪い環境であると読み取ることはできない。
というのは、これは相対湿度のグラフだからだ。相対湿度は、温度によって実際の水分量が大きく変化する。
最高気温と最低気温を比較する
でもその前に最高気温と最低気温を見ておく。最高気温というのは、日々の最高気温を月毎に平均したデータである。下のグラフでは、最高気温と最低気温を別々のグラフにして、都市別の比較をした。
相対湿度は気温によって大きく変わるので、温度を抜きにして相対湿度だけを云々しても全く無意味なのである。
日本より暑い都市がある。と思えばそれはローマだ。ローマは本当に暑い。
次に最低気温である。東京が一番暑くて、先ほどのローマはずっと低い。つまり夜は気温が下がるのだ。ローマでは昼間は暑くても夜はそこそこ眠れるということなのだろう。
まあ、このように、ざっと見るだけでも、ヨーロッパと東京は温帯地域の共通点はあるけれども、湿度大きく異なり、そして昼夜気温差の程度も異なっている。全く異なる気候であることがわかる。
絶対湿度では決定的な違いがある
今度は絶対湿度(g/m3)のグラフである。上の相対湿度のグラフではV字とA字で逆転していたが、実際の水分量を測ると傾向は全く同じだ。
北半球なので、偏西風の影響や海洋温度の影響も近い。7月、8月、9月で突出しているのは、東京の水分量である。
夏は水分が多いのに、冬はカラカラに乾いて、1月には東京はこれらの都市の中でも最も少ない水分量である。
つまり、夏はこれらの都市の中では、最も絶対湿度が高く、冬には逆にカラカラに乾燥して最も絶対湿度が低くなるということである。
東京は、湿度の推移という点でも過酷な環境にあることがわかった。これらのヨーロッパの都市の中で東京を比べると、冬に一番水分量の少ないストックホルムよりも乾燥しており、夏は一番水分量の多いローマよりも湿気を帯びている。
家ではドイツのピアノを弾いている。温度と湿度をうまくコントロールすれば、ヨーロッパで作られた楽器も日本で守っていくことができる。
関連記事:
・「相対湿度から絶対湿度への計算方法(容積絶対湿度・重量絶対湿度)」
・「ピアノのピッチと温度と湿度の関係について」
・「ピアノ室の防音と換気について」
こんにちは。
楽器にとっての湿度について調べていて、
こちらにたどり着いたところです。
イギリスのクラヴィコードを日本に持ってきた場合の
影響について考えたいのですが、
木でできた楽器にとって参考にすべきなのは
絶対湿度ですか?相対湿度ですか?
イギリスの楽器を日本(日本海側)に持ち込むことによって
生じるかもしれないメンテナンス上の問題って、
どんなことが考えられるでしょうか?
もしよろしかったら、教えてくださいませ。
ちなみに、ビリージョエル、大好きです。
グラスハウスも。
ふらっとさん
コメントありがとうございます。
クラヴィコード、いいですね!
私は楽器メーカーではありませんので、
音楽愛好家の立場でお答えします。
やはりイギリスと日本との一番の気候の違いは、
夏の高温と高湿度ということだと思います。
木材にとって、水分の吸収・放出の程度を推定するには、
絶対湿度ではなく、相対湿度が管理しやすいと思います。
極端な高湿度、低湿度にならないよう、
除湿あるいは加湿をすることが重要です。
ここからは私見ですが、
木材を使った楽器は、いずれも製造過程で時間をかけて
乾燥されているので、乾燥には大変に強いと思います。
逆に、湿度が高い環境に置かれていた場合が問題で、
ピアノの場合はピッチが上がったり、
タッチが少し重くなるような感じになったりします。
でも、少しずつ湿度を低くしていけば、ものの数時間で
また元の状態に戻ります。
除湿機・加湿器で、湿度を通年でコントロールすれば、
ほとんどの問題を回避できるのではないかと思います。
(乾燥剤などの効果は実感できませんでした)
相対湿度50%を目標として、平均して35%〜60%程度に
収めれば、文句なしです。
ヨーロッパから来た木の楽器も、時間が経つにつれて
次第に新しい環境に慣れていきます。
ただ、環境が大きく変わってから1ヶ月くらいは、
木材の伸縮や金属部分との接触の具合などが変化するので
あまり酷使しない方が良いと聞いたこともあります。
他には、木材の場合、虫食い、輸出木箱の燻蒸処理など
もチェック項目ではありますが、熱い地域ではないので
特に心配ないかと思います。
木で作られた楽器は本来とても強いものだと思います。
ご参考になれば幸いです。
komoriss
とても役にたつ記事をありがとうございます。
住宅関係でもとても役立つ情報です。