音楽を大きな音で聴くことの弊害 〜 騒音性難聴の影響は永続的

街には大きな音が溢れている。幹線道路沿いの自動車の音、大都市の繁華街の喧騒、電車のアナウンスなど、耳に痛いことがある。耳は、大音量に日常的にさらされて、どのような影響があるだろうか。

大きな音を聴くことは危険

結論としては、大きな音を聞くことは危険なことである。まず第一には、騒音性難聴になる危険がある。英語では、noise-induced hearing lossと言って、略して NIHLという。スマートフォンが最初に大流行したアメリカでは、騒音性難聴が広がるのも一番早かった。

NIHLという難聴は、大きな音を聞いたり、大きな音を聞き続けたりすることで発症する。工事現場や大きな音のする工場、ライブハウスやクラブでの大音量が原因だったり、あるいは、スマートフォンに接続したヘッドフォンやイヤホンによるものも多い。

音響外傷と騒音性難聴の違い

急激な大音量の刺激で音が聞こえなくなったり、耳鳴りが止まらなくなったりすることがある。至近距離で爆発した花火とか爆発、急激な大音量で起こることがある。これは一般には、音響外傷といって一時的なものであることが多い

ところが、一定以上の音量を長い時間、聞き続けていると聴力が弱くなり、回復しない場合がある。この騒音性難聴は治りにくいと言われている。

大きな音を聞き続けていると、脳の反応と耳の機能とが共同して、大きな音で刺激を受けないように体を改変してしまうのである。ただし逆に、静かなところで過ごしても、小さな音が聴けるように聴力が戻ることはない。

危険となる音量と時間

危険となるのは音量と継続時間であるが、大まかな目安が次の一覧表である。1日あたりでおおよそこれだけの時間、この音量に接していて、1か月から数か月くらい過ごすとしたら、危険だということを意味している。

82dB(A) → 16時間
85dB(A) → 8時間

このあたりまでがおおよその安全圏内である。
この先は大変に危険であると意識すべきということだ。

88dB(A) → 4時間
91dB(A) → 2時間
94dB(A) → 1時間
97dB(A) → 30分
100dB(A) → 15分
103dB(A) → 7分30秒

(WHOのガイドラインを参考にした。また、dB(A)というのは人間の耳の特性に補正するためのA特性で評価した数値を示している。)

6dBで音量が約2倍になる

3dBで約1.4倍、6dB上がると音量はおよそ2倍になる。10dBでは約3.2倍、20dBでちょうど10倍になる。

dBは対数がベースになっているため、20dB増えるごとに、10倍になっていく。40dBでは100倍、60dBは1000倍の音圧となる。

ゲームセンター店内、激しい交通騒音、重機などを使う工事現場などでは、85dB程度以上の音量となる。パチンコ屋では100dBを軽く越しているところも多い。

ドライヤーも100dB程度の音量であるので、耳元で15分以上使用することは避けた方が良いだろう。

さて、我が家の騒音計を紹介する。精度の高い高級計測機器ではないので、あくまで参考にと思い導入したものだ。音量のdBを測るものであるが、A特性である(A特性については、いずれ説明したい)。

アップライトピアノで両手の和音をfffで弾くと、ピアノからおよそ1mのところで、115dBという数値が出た。

アップライトピアノを普通に弾いていると、大体中くらいの音量で65dBから85dBくらいだった。音の大きいところでは100dBを超える。

人の声は少し大きめに「おーい」というと85dBくらいになった(距離はおおよそ1m)。あくまでこれは目安だが。

騒音性難聴とは?

騒音性難聴の初期症状では聞こえにくくなったり耳鳴りがしたりするが、この段階で難聴であると自覚することはあまりなく、どんどん進行する。騒音性難聴は、4000Hz付近の高音域がきわだって聴力が低下するのが特徴だ。

人の声は250Hzから2000Hzくらいであるが、4000Hzというと、携帯電話の呼び出し音や目覚まし時計の電子アラーム音などがそれにあたる。

騒音の大きな工場や工事現場などで大きな音にさらされて発症した場合には「職業性難聴」とし、大音量のライブハウスやヘッドフォンなどによる場合を「音響性難聴」と区別するが、症状は同じで聴力の低下が起こる。

  1. 騒音性難聴には遺伝子が関係しており、遺伝的に、騒音の曝露で難聴をおこしやすい人と、多少の騒音を聴いても難聴をおこしにくい人がいる
  2. 騒音性難聴には治療法はなく、騒音の曝露を受け続ける限り、難聴は進行する
  3. 騒音の曝露を止めると、そこで進行は止まる
    耳鼻咽喉科かめやまクリニックHPより)

騒音性難聴の遺伝子については、東北大学と防衛医科大学の研究がある。

耳の能力について

高い音を聞き分ける能力は、老化と関係している。年をとるとだんだんと高い音が聞こえにくくなってくる。モスキートトーンなどがそれだ。

一方で、細かな音色を聞き分ける能力は、経験に関係する。というのは、これは脳の力だということになる。耳の力だけでは得られない能力で、自分で音を出しながら聞くことで音色の変化を感じ取れるようになる。

音楽を聴いているだけでは、音色の変化とか、音のつながりや切れ目を感じ取れるようにはならない。

バッハのフーガなどの対位法の鍵盤曲では、初心者の演奏ではよく音が途中で切れてしまうのであるが、耳の鍛錬ができていない人は、これに全く気がつかない。

音楽愛好家の人々(いわゆるクラシックの・・・)

クラシックのCDを聴く人には二つのタイプがあって、一つは音楽を聴きたい人、もう一つは、良い音を聞きたい人がいる。似ているけれどちょっと違うのだ。

これに対応するように、クラシック音楽の録音にも2種類ある。一つは、ホールの客席中央で聞いているように調整して録音するもので、これは音楽を聴く人のためのものだ。もう一つは、原音に近い音をクリアーに録音したもので、ピアノの蓋を開けて中を覗き込んでいるような音を目指して制作される。

原音を気持ち良く聞きたい人は、高級アンプ、高級プレーヤー、高級スピーカーにどんどんと向かっていく。このようなオーディオマニア向けのCDやSACDなどには、最近ではハイレゾも加わったが、やはり全体から見れば、少数派である。

音楽を聴くための音源を大音量にしても意味はない!

たいていのCDや配信された楽曲は、音楽を聴くためのものである。

音楽を聴くための録音は、ホールの残響音もミックスされているので、音自体の粒は細くないので、これを大きな音で再生しても、画質の粗い解像度の低い写真を拡大して見ているかのように音は粗くなってしまう。

残響音というのも、気持ちは良くても突き詰めればノイズなので、ある一定以上の音量にすると騒音になってしまう。

つまり、実際の楽器の音量と同等まで、ボリュームを上げて再生できる種類の音ではないのである。ライブの音源はオリジナル音源だから音量を上げられるが、音楽視聴用に録音されたCDではそれは無理だ。

通常の録音のCDの音楽を大きな音で再生することは全く意味がない。これをどんな高級なオーディオで再生しようとも所詮無理なことである。

大音量では音感も損なうことに!

高価なノイズリダクションシステムなどがない状態で、荒っぽいCD音を大音量にすると自然界ではありえないものすごい不均衡な音になってしまう。極めて汚い音になるので、音楽に携わる人は決してこのようなことをしない。

良い音は決してうるさくない

荒く汚い音に慣れることは良くない。良い音は「決してうるさくない音」であるということを言いたい。うるさいほどの大きな声で話しかけられても、それは美しい声には聞こえないはずだ。

こういうわけで、CDや音楽メディアを大音量で聞き続けることのできる人というのは、私の経験と知識では、今のところ例外はなく、楽器を日常的に演奏することがなく、歌を歌うこともなく、朗読などの声を出すことも全くない人である。

日常的に大音量で音を聞いている人は、細かな音色の変化や音の重なり、さらにはピッチの変化などを聞き分けにくくなってしまう。この音感の喪失は大変に大きな損失である。

作曲家や演奏家、アレンジャーもピアノ調律師も、大きな音に触れる時間をできるだけ少なくするようにしているという。それは大きな音が不可逆的な難聴を惹き起こすだけでなく、音感をも鈍らせてしまうことを経験的に知っているからだ。

そうは言っても、大きな音が好みの人は、自己責任でやることは自由である。それでも、家族や子供を巻き込むことは避けた方が良い。

小さな音の時に脳は活性化する

音量が大きいと脳は音に注意を向けなくなってしまう。音の特徴だけを把握したら、残りの細かな音色を聞かないように処理してしまう。耳や体を守るように脳は働くようだ。

雷や大雨の音は、「危険な音」であって、耳慣れる音量ではなかった。この音量で慣れてしまうと、脳が危険な音を判断できなくなってしまう恐れがある。

小さな音を聞いている時に、一番脳は活性化する。音色も音程も音の長さも正確に把握しようとする。なぜならば、重要な情報は小さな音だったからである。獲物を捕まえるのも、敵から身を守るのも、小さな音をいち早く察知することで得られるからだ。

耳はできるだけ休ませると良い

音を注意深く聞ける集中力が持続している間、音に対しての感受性は高くなっている。この集中力も長くは続かない。

ピアノやヴァイオリンなどを演奏しているといつも大きな音を聞いていることになるのだが、不思議なことに演奏者は演奏中に遠くの小さな音を聞き分けることができる。自らが演奏している音を、注意深く聞くという行為を続けているときは、音に対する感受性は高い状態にある。

良くないのは、受け身で大音量を聞き流しているような時であり、このような時に聴覚能力の損壊が著しい。

集中力のない状態の時や疲れた時は、できるだけ無音にして耳を休ませる必要がある。長い時間音楽を聴き続けるのも耳には良くない。上記「危険となる音量と時間」に示したが、オーディオをそこそこしっかりと鳴らせると概ね91dBに達するので、1日2時間が限度ということになる。

聴力と環境の関係については、まだまだ解明されていないこともある。音は、多かれ少なかれ人にとってはストレスとなるということである。耳を休ませることも重要だ。


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