ショパンの曲には、よく装飾音符が出てくる。
これは頭についた単音小音符の装飾音符である。これらの装飾音符は親音よりも音量は小さく、音価は短いのである。小音符に斜線がついており、短前打音などと呼ばれる。
基本的には、親音よりも小音符の方が目立ったりしてはいけないものである。この音の後ろに来る、本来の音を引き立たせるための装飾音符なのである。
まずこのことを忘れてはいけない。にもかかわらず、ものすごく早く弾いてしまって、並んだ二つの半音がほとんど同時になってしまい、短二度の不協和音になっているピアニストも多いようである。これではもうどちらが装飾音符なのか分からない。また音楽の品位も落ちてしまう。
そのように不協和音を鳴らし続けていくと、技を見せたくてそうなってしまうのかは分からないが、ある種のkiwamono的な演奏になってしまう。音楽的には大きな疑問符がついてしまう。音楽教師がそのように教えたのか。それにしても、その気持ち悪さをそのまま受け入れてしまうのは一体どういうことか。幼少期に洗脳されてしまったのか、あるいは美的感覚がなかったか、あるいはもっと大きな問題が潜んでいるのか。いずれにしても憂鬱になってしまう。
さて結論が遅れてしまったが、この曲のこの部分について言えば、これはちょうど付点音符で弾くのが良い。とは言うものの、この曲に限らず、ショパンの装飾音符は基本は付点音符で弾いて良い。機械的に、短前打音だからと言ってできるだけ短くしようとすると音楽的には流れが損なわれてしまう。付点音符でも短すぎる場合もあり、その時はもっと音価を長くすると良い。躊躇する必要は何もない。
この曲のここでは、装飾音符は拍の前に入れる。(別のフレーズで、トリルやプラルトリラーでは拍の頭で(オンザビートで)入ることもしばしばある。)
長前打音も短前打音も古くはバロック以前から古典派に至るまで、親音の開始のタイミングで小音符を奏するのが通例であった。古典派の頃から、親音の前に入れる演奏法が増えたのであるが、元々の演奏法がなくなったわけではないことは心に留めておきたい。
さて、ショパンに限らず、古典派からロマン派の中期までの楽曲では、装飾音符を短くしすぎると気持ち悪くなってしまう。
言うまでもないことだが、テンポが早くなりすぎないよう、音楽的に不自然にならない速度に抑えることも重要である。
* 上の付点音符の楽譜は、MuseScoreをインストールして作ってみた。実に簡単だった。とても良い。