初夢
正月になり、初夢についてのある体験を思い出した。何十年も前の小学生の頃のことである。僕が学校で元旦の朝に見た夢のことを話したら、「それは初夢じゃないよ、元日の夜に見た夢を初夢というのだ」と言われた。ちょっと残念な気持ちになったことは今でも覚えている。
初夢の定義とは?
ここでまず初夢とは何か、その定義を考えてみる。「初夢とは、年が改まってから初めて見る夢のこと」と言えば間違いではない。
「年が改まる」の部分が少し曖昧である。
午前0時に日付が変わることは小学生だって知っている。ただし、このタイミングで日付が変わるのは、実は現代になってからのことである。
いつの時点で日が変わるのか? いつの時点で年が変わるのか?
一年の始まりはいつ?
「一富士二鷹三なすび」などと言われ始めた頃には、誰もが時計を持っているわけではないので、夜中には日付が変わるわけではなかった。江戸時代までの時刻は、日の出から一日が始まるのである。
夜中の12時では一日の始まりが曖昧でいけない。日の出であれば明るくなってくるし、お天道様がちょっと出たらもう日の出だということにしておけば分かりやすい。
ということは、日の出以降からが一日の始まりであり、元旦の日の出が一年の始まりであったということになる。
日の出以降にお参りするのが初詣ということになり、神域の山頂からのご来光というのも、それが一年の始まりであるからということで納得感がある。夜中に真っ暗な中で神社やお寺で行列するというのは、きわめて現代的なことなのだ。
初夢はいつ見るのか?
初夢というのは、江戸時代までの感覚で言えば、元旦の朝に見るものではなかったと想像される。寝坊な人たちもたくさんいただろうけれども、日の出の頃にはもう起きている人が多くいただろう。だから、初夢というのは「新年になってから見た初めての夢」であるから、元旦の夜に寝て、その夜から明け方までにかけてみる夢が初夢になるというロジックである。
元日の朝、日の出以降に目を覚まして、「俺はたった今夢を見てたよ。いい夢だったんだよ。それで飛び起きたんだ。いい初夢だったなぁ」っていうと、これは初夢かと問えば、初夢だと言えるかもしれないのだが。
けれども、夢を見ている本人にはなかなか時間は分からないので、はたで見ていた人が「お前さんは寝言で幸せだなあって言ってたよ。夜明け前だったけどさ」というのであれば、それは初夢ではなかったかもしれない。
初夢の二つの流儀
初夢を考えるには、「新年の考え方」と「夢を見た時間」ということがキーになってくる。
ここに二つの流儀がある。現代風に午前0時で「明けましておめでとう」を言う人は、それから見た夢が初夢となる。古い流儀で日の出から新年を祝う人は、それ以降に見た夢が初夢となる。地域によってはもっと違った流儀があるかもしれない。
「君は初夢を見たと思っているかもしれないが、それは初夢じゃないよ」と人から言われるのもちょっと不愉快だ。
初夢というのはめでたいことであるので「正解はひとつ」にしなくても良いと思う。今の時代、とかく正解を一つに決めたがるようだが、多様性も大切だ。複数の流儀があっても良いのではないかと思う次第である。