酸性・アルカリ性・中性に関する基準値について
家庭用品品質表示法における漂白剤・合成洗剤・石けんなどの液性は次のようになっている。
液性 | pHの範囲 |
---|---|
酸性 | pH < 3.0 |
弱酸性 | 3.0 ≦ pH < 6.0 |
中性 | 6.0 ≦ pH ≦ 8.0 |
弱アルカリ性 | 8.0 < pH ≦ 11.0 |
アルカリ性 | 11.0 < pH |
pH=7 を中心として両側に対称になっている。
温泉のpHはどうなのか?
一方、温泉では少し数値が異なり、湧き出した時のpH値により次の通りに分類される。中性を真ん中に対称にはなっていない。
泉質 | pH |
酸性 | pH < 3 |
弱酸性 | 3 ≦ pH < 6 |
中性 | 6 ≦ pH < 7.5 |
弱アルカリ性 | 7.5 ≦ pH < 8.5 |
アルカリ性 | 8.5 ≦ pH |
考えられることは、温泉の温度が高いためにpHを7とすると中性からずれてしまうために中性をずらしているのであろう。40℃の時の中性のpHは6.77であるので、6と7.5の中央に近い。
そう思って色々と調べたが、環境省自然環境局「鉱泉分析法指針(平成26年改定)」を見ると、「6. 物理および物理化学試験、6-2 pHの測定」の項(p.25)を見ると、源泉における試料の採取については、「200〜500mLのポリエチレンびんに上部に空間を残さないように採取、密栓したのち急冷(または加温)して25℃とする」と書かれている。やはり、温泉も25℃で測定するのであれば、中性の中央値を7.0としていないのは温度のせいではないということになる。
弱酸性の幅をpH値で3としているが、弱アルカリ性ではpH値の幅で1しか余裕をもたせていない。これは、アルカリ泉が少ないこともあるだろうが、もっと重要なことは、アルカリ性は肌の感覚では感じ取りにくく、肌を痛めるリスクが高いことを考慮したのではないかと思う。
イオンの活量について
温泉水には様々なイオンが多量に溶けている。ミネラルも多量に存在する。イオンの量をそれ単体で計測することが難しいので、イオンの濃度ではなくて、活量を扱うことが多い。
化学的にはイオンの濃度よりも活量が重要になってくる。活量とは、化学表現で言い換えると「熱力学的に有効な濃度」である。現代のIUPACやJISでもこの活量を基礎として水素イオン指数が定義されている。
実際の溶液中では、イオンの能力は分子間力で打ち消されて100%働くことはない。理想的な状態を実際の状態に近づけるための係数が活量係数である。
活量係数(f) × 濃度= 活量
この活量係数(f)は、計器では測定できないので、計算や実験によって推測することになる。
pH = – log(aH)
aH:水素イオンの活量
aH = f * [H+] ここでfは活量係数である
とすると、これはpHの定義そのものである。現在のIUPACやJISで採用されているのも、この活量を用いた定義となっている。
食品や人体の酸性とアルカリ性
食品や人体の酸性、アルカリ性については、化学でいう酸性・アルカリ性という液性と、食品とは全く考え方が違うので、別の稿に分けた。
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pHをなぜペーハーと発音するのか?
pHをペーハーと発音することに慣れている人も多いだろう。これは一般には、ドイツ語読みが広まったからだと言われている。ところが、少し不思議なことがある。
pHは、何の略かというと、wikipediaではpotential of hydrogenとなっている。また他にも、power of hydrogen ion concentrationとか、これが合わさったようなpower potential of hydrogenという言葉がある。
はて? これらはすべて英語である。どうやっても「ペーハー」と発音する根拠がない。ドイツ語では、Wasserstoffionenexponentという。複合語を分解すると、Wasserstoffが水素、ionenがイオンの複数形、exponentが指数だ。ドイツ語では水素の頭文字はHではない。
pHの概念は、1909年にデンマークの化学者セーレン・セーレンセン(Søren Peter Lauritz Sørensen)がデンマークのカールスバーグ研究所で最初に導入した。カールスバーグ研究所によればpHはpower of hydrogenという。
そしてpHのpの意味については、「力」を表すドイツ語のpotenzやフランス語のpuissanceであることが示唆されている。また、ラテン語では、pondus hydrogeniiが水素の量、potentiala hydrogeniiが水素の力にも由来するという。
ちなみに、当時セーレンセンが提案した表記方法は、PHだった。PがメインでHが下付きの添字になっていた。今とは逆であった。
つまり、pHとドイツ語は本来関係がなく、医学や化学がドイツから入ってきた時に、これらの専門用語と混ざり合ったまま、英語の略号もドイツ語読みのままで輸入されたのではないかと推測される。(日本におけるpHの読み方に関する解釈はこのサイト独自のものです。)
おまけ:酸性・アルカリ性に関わる、その他のこと
- 純水は、空気に触れるとCO2が溶け込むので、少し酸性に変化する。
- 雨が降ってくる途中で空気中の二酸化炭素が雨粒に溶けていき、水に溶ける最大量の二酸化炭素を含んだとすると雨のpHは5.6になるという。だからpHが5.6までは酸性雨とは言わないのだ。実際にはpH6.0くらいまでだそうだ。
- 海水は、溶け込んでいるミネラル類等によってアルカリ性である。しかし、近年は、大気のCO2が増加した結果、海水もその影響を受けて、少し酸性よりに(中性の方向に)近づいている。海水の酸性化というのは、アルカリ性が中性に向かっているということである。
- 気象庁のデータでは、1985年に日本近海の北緯30度でpH8.15だったが、2015年には8.10になった。海水の酸性化は少しずつ確実に進んでいる。
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